備忘録 その3

仙台の市街は停電で、道の様子が見づらく、
普段ならテクテク歩ける場所でも慎重に
進まねばなりませんでした。まず信号が
機能していないので、青葉通や南町通を
渡るにも、通り掛かる車が雰囲気を見て
歩行者に譲るのを待たねばなりません。
 
それ以上に、道の歪みと、時折窓ガラスの
割れ落ちた破片が行く手を慎重にさせます。
40人集団での移動で、異変は直ぐ伝わる
状況のため、一人で移動するよりは遥かに
恵まれていたのでしょうが、それでもなお
疲労感がこみ上げる道中でした。
 
愛宕大橋を渡ると、家電屋の廃屋から、
相当窓ガラスの破片が飛び散っている道に
差し掛かりました。舗道は歩けず、車道を
注意深く歩き過ぎたと思った次の瞬間、
今度は妙に水浸しの道。どうやら地下管が
破裂していたようで。
 
そんなこんなで長町へ。見慣れた商店街の
街道が、歪んで見えました。この時は単に
大袈裟な錯覚かと思っていましたが、翌朝
見直した時、それが錯覚ではないことに
気づきました。
 
そして、学生寮へ着いたわけですが、概ね
90分超を要していたことに気づき、余計に
心身が磨り減りました。とりあえず一晩を
しのぐ場所に辿り着いただけに過ぎない
この集団が、明日から直面する問題は至極
大きいものだと、誰ともなく感じ取って
いたのでしょう。情報が寸断された挙句、
おおよそサバイブすることを意図した
装備を誰もしていない。学生にとっては、
家に辿り着くのがいつなのか、まったく
分からない状態、そして職員にとっては、
自らの装備もない上に、学生が残っている
限り、保護し続けねばならない状態。
 
その集団の中で俺が唯一恵まれていたのは、
住処がすぐそばにあること。揺れで荒れた
状態とはいえ、帰る場所と物資は問題ない。
(もっとも「自分ひとりサバイブする」
という前提に過ぎないが)
 
言葉を荒げる者は居らず、あからさまに
取り乱す者も居ない。むしろ憔悴が大半を
支配する寮の空気。この状況を乗り切る
ためには、とにかくアイデアが必要だ、
そんな事を思いつつ、ひとまず徒歩5分の
家路へと向かいました。
(つづく)